平成20年改正の重要項目
平成20年税制改正の重要項目
T.個人課税に関する改正
エンジェル税制の拡充
(1)投資額が「寄附金控除」の対象に
平成20年4月1日以後に、「特定新規中小会社」に該当する会社に出資した場合には、出資額のうち1千万円を限度として寄附金控除の対象とする制度が創設されました。
従来からの優遇措置である@新規会社への投資額をその年の株式譲渡益から控除できる制度、およびA譲渡損失の翌年以後3年間の繰越控除制度についても、引き続き適用されます。
(2)「特定新規中小会社」とは
エンジェル税制の適用対象となる特定新規中小会社とは、「中小企業の新たな事業活動の促進に関する法律」に規定する特定新規中小企業者のうち、
@設立1年目の会社、または、A設立2年目または3年目の会社で前期および前々期の「営業キャッシュフロー」が赤字である会社をいいます。
また、同族株主以外からの投資を6分の1以上受け入れている非上場会社であり、一定条件を満たす研究開発型の会社でなければなりません。
(3)「課税の繰延」としての制度内容
これらの会社への出資については、出資金額(総所得金額の40%または1千万円のいずれか少ない金額を限度とする)から5千円を控除した金額が寄附金控除の対象となります。
なお、当制度により寄附金控除の適用を受けて総所得金額から控除した金額は、取得した特定中小会社の取得価額から控除されます。
寄附金控除として所得金額から控除した金額を特定新規中小会社の取得価額から差し引くことで、株式の簿価が下がります。その結果、将来その株式を売却したときの売却益が大きく計算されることになります。
つまり、納税額の減免ではなく、課税の繰延べとしての税制優遇措置となっています。
(注)エンジェル税制とは ・・・ 一定のベンチャー企業(特定中小会社)が発行する株式に投資する個人投資家(エンジェル)に対して設けられた次に掲げる税制優遇制度です。
「省エネ改修工事」に関する税制優遇措置
(1)「省エネ改修工事」に関するローン税額控除
借入金により、既存住宅の省エネ改修を含む増改築等を行い、その自宅を、平成20年4月1日から12月31日までに居住用に供した場合には、「住宅省エネ改修促進税制」による税額控除の適用を受けることができます。
省エネ改修工事とは、すべての窓の改修工事またはそれと同時に行う床および天井の断熱工事など、エネルギー使用の合理化に資する一定の改修工事で工事費用の合計額が30万円を超える工事をいいます。
(2)固定資産税の減額
平成20年1月1日に存していた自宅について、同年4月1日より平成22年3月31日までの間に、30万円以上である一定の省エネ改修工事を行った場合には、改修工事が完了した年の翌年分の固定資産税(120u相当分を限度)の3分の1が減額されます。
当制度による減額特例を受けるためには、改修後3か月以内に建築士等が発行した証明書を添付して、市町村へ申告しなければなりません。
固定資産税の減額は、自己資金による改修工事についても適用されます。
金融・証券税制の改正
(1)上場株式等の配当・譲渡益に対する軽減税率の廃止
平成20年度税制改正により、平成20年12月31日をもって上場株式の譲渡益および配当に対する軽減税率10%の適用が廃止されることとなりました。ただし特例措置により、平成21年1月1日から平成22年12月31日までの2年間は、500万円以下の譲渡益および
100万円以下の配当については、従来どおり軽減税率が適用されます。
(2)「少額配当」に関する特例に関する改正
改正前においては、上場株式の配当については、金額の多寡に関わりなく、10%の源泉徴収で課税完了とする申告不要制度の選択が可能でした。しかし改正により、平成21年1月1日以後に受ける配当については、その上場株式等の譲渡益について、平成20年12月31日まで10%(所得税7%、住民税3%)の軽減税率により課税されます。年中の配当(年間の支払金額が1万円以下の銘柄を除く)の合計金額が100万円を超える場合には、
申告不要特例は適用されず、確定申告が必要です。
たとえば、1銘柄2万円の上場株式の配当を、年間に60回受け取った場合には、年間の配当金額の合計額(120万円)が100万円を超えるため、源泉徴収での課税特例は適用されません。
この場合は、申告分離課税を選択することにより、100万円以下の部分は10%、100万円を超える20万円については20%で課税されます。
なお、申告分離課税を選択しない場合は、累進税率による総合課税により課税され配当控除の適用があります。
(3)上場株式等の配当所得と譲渡損失の損益通算制度の創設
平成21年分以後の所得税より、上場株式の譲渡損失と、申告分離課税を選択した配当所得との損益通算ができることとなりました。
その年分またはその年の前年以前3年内の上場株式の譲渡損失の金額があるときは、その損失額を配当所得から控除することができます。
平成22年1月1日以後は、届出書の提出により、源泉徴収選択口座に上場株式の配当を受け入れることができ、その口座内での配当所得と上場株式の譲渡損失を損益通算したうえで、源泉徴収による課税特例が適用されます。
「個人住民税」での寄附金税制の改正
地方税における寄附金税制の内容が拡充されるとともに、新しく「ふるさと納税」制度が創設されました。
(1)「寄附金控除」制度の改正
寄附金税制について、次のとおり内容が拡充されました。
@寄附金控除の適用対象の拡大・・・地域住民の福祉の増進に寄与するものとして、地方公共団体が条例で指定するものが寄附金控除の対象に追加されることとなりました。
A税額控除方式への変更・・・地方税における寄附金控除が、所得控除方式から「税額控除方式」に改められました。適用対象となる寄附金について、控除率10%(道府県民税4%、市町村民税6%)により、納めるべき住民税額から控除されます。
B控除対象限度額の引き上げ・・・寄附金控除の控除対象限度額が、総所得金額の30%(改正前は25%)に引き上げられました。
C適用下限額の引き下げ・・・寄附金控除の適用下限額が、5千円(改正前は10万円)に引き下げられました。
(2)「ふるさと納税」制度の創設
都道府県または市区町村に対する寄附金については、これらの基本の税額控除の適用に加えて、特例控除が認められます。具体的には、「寄附金のうち5千円を超える部分の金額×(90%−納税者の所得税の限界税率)」に相当する金額の税額控除が認められます。
特例控除は、住民税所得割の10%相当額を限度として、5分の2は道府県民税から、5分の3は市町村民税から控除されます。結果として、地方公共団体への寄附金のうち5千円を超える金額は、所得税での所得控除と合わせて、一定限度額まで全額が控除されます。
「ふるさと納税」という名前のとおり、納税者の選択により「ふるさと」に貢献できるしくみとなっています。
教育訓練費の税額控除に関する改正
(1)改正の内容
改正により、当制度は中小企業に対象を限定するとともに、教育訓練費の増減額に関わりなく、総額に対する一定割合での税額控除とされました。
ただし、労働費用(給与、法定福利費、教育訓練費)に対する教育訓練費の割合が0.15%(中小企業のほぼ平均値)以上の場合にのみ、一定の控除率による税額控除が受けられます。
また、労働費用に対する教育訓練費の割合が高いほど、税額控除率が大きくなります。
(2)税額控除額の計算方法
中小企業者について「教育訓練費割合」に応じて次の税額控除が認められる。
(平成20年4月1日から平成21年3月31日までに開始する事業年度)
@教育訓練費割合が0.15%以上0.25%未満
・・・ 教育訓練費× {8%+(教育訓練費割合−0.15%)×40}
A教育訓練費割合が0.25%以上 ・・・ 教育訓練費×12%
※ 教育訓練費割合=教育訓練費÷労働費用(給与、法定福利費、教育訓練費)
試験研究費の税額控除に関する改正
(1)改正の内容
改正により、試験研究費割合の高い会社には多くの税額控除を認める制度が新設されるとともに、税額控除限度額が当期の法人税額の30%(改正前は20%)までと拡充されました。
具体的には、従来からの基本的な恒久制度である試験研究費の総額に対する税額控除に加えて、@試験研究費の増加額、または、A高水準部分の試験研究費に対する税額控除との選択適用が認められることとなります。
恒久制度では、当期の法人税額の20%を限度として、大企業では「試験研究費割合」により試験研究費の総額に対して8〜10%、中小企業者では試験研究費の12%相当額の税額控除が認められています。
この基本的な制度に加え、当期の法人税額の10%を限度として、@試験研究費の増加額に対して5%相当額、あるいは、A試験研究費割合が10%を超過する高水準部分に対して一定額の税額控除を受けることができます。
(2)「大企業」に対する税額控除
次の@とAにより計算した控除額の合計額
@当期の試験研究費総額×8%(当期の法人税額の20%を限度)
(注1)試験研究費割合が10%未満である場合には、試験研究費割合に0.2を乗じて計算した割合に8%を加算した割合(小数点以下3位未満の端数は切り捨て)となる。
(注2)試験研究費割合が10%以上のときは、税額控除割合は10%となる。
A次の(イ)または(ロ)のいずれかを選択(当期の法人税額の10%を限度)
(イ)試験研究費の増加額×5%
(ロ)(試験研究費の額−平均売上金額×10%)×(試験研究費割合−10%)×0.2
(3)「中小企業者」に対する税額控除
次の@とAにより計算した控除額の合計額
@当期の試験研究費総額×12%(当期の法人税額の20%を限度)
A次の(イ)または(ロ)のいずれかを選択(当期の法人税額の10%を限度)
(イ)試験研究費の増加額×5% (ロ)(試験研究費の額−平均売上金額×10%)×(試験研究費割合−10%)×0.2
「情報基盤強化設備等」への投資に対する減税
(1)改正の内容
改正により、情報基盤強化設備等の投資減税となる対象設備が追加されるとともに、資本金1億円以下の中小法人について、年間投資額の最低限度額要件が70万円(改正前は300万円)以上に引き下げられました。その一方で、資本金が10億円超の大規模法人については、取得価額の合計額を200億円までとするという上限も設けられました。今回の改正により、新しく「部門間・企業間で分断されている情報システムを連携するソフトウェア」も対象設備に追加されました。
(2)具体的な計算方法
特別償却の適用を受ける場合には、普通減価償却費に加えて、情報基盤強化設備等の基準取得価額(=取得価額×70%)の50%相当額の特別償却費が損金に算入されます。
税額控除を選択する場合は、当期の法人税額の20%相当額を限度として、情報基盤強化設備等の基準取得価額(=取得価額×70%)の10%相当額の税額控除が認められます。
なお、税額控除は当期の法人税額の20%相当額を限度としますが、当期の法人税額から控除しきれない金額(税額控除限度超過額)については、翌1年間繰越して、翌期の法人税額から控除することができます。
機械装置の法定耐用年数の見直し
改正前には390区分もあった機械装置の資産区分が55区分に整理されるとともに、耐用年数省令が見直されました。
「寄附金の損金算入限度額」の改正
特定公益増進法人に対する寄附金の損金算入限度額について、所得基準が所得金額の5%(改正前2.5%)相当額に拡充されました。これに伴い、法人税の所得計算における寄附金の損金算入限度の計算方法が変更されました。
次の算式のとおり、特定公益増進法人に対する寄附金については、@一般の寄附金の損金算入限度額とは別枠で、A特定公益増進法人等に対する寄附金の損金算入限度額が設定されます。特定公益増進法人等に対する寄附金のうち、Aの損金算入限度額を超える金額は、一般寄附金として取り扱われ、一般の寄附金と合計して@の損金算入限度額を超える場合には損金の額に算入されません。
@ 一般の寄附金の損金算入限度額
(当期の所得金額×2.5/100+資本金等の額×2.5/1000)×1/2
A特定公益増進法人等に対する寄附金の損金算入限度額
(当期の所得金額×5/100+資本金等の額×2.5/1000)×1/2
V.今後の税制改正の予定
「相続税の納税猶予制度」の創設
(1)制度の概要
平成21年度の税制改正において「非上場株式の相続税の納税猶予制度」が創設され、平成20年10月の相続から遡及して適用される見込みです。
この制度により、経済産業大臣の認定を受けた中小企業の非上場株式(発行済株式総数の3分の2以下まで)について、相続税の80%の納税が猶予される予定です。納税猶予の特例は、被相続人である親が同族関係者と合わせて過半数の株式を所有する筆頭株主であった場合で、かつ、相続後において、後継者である相続人が同族関係者と合わせて過半数の株式を所有する筆頭株主となる場合にのみ適用されます。
(2)制度選択の留意点
納税猶予制度には、後継者である相続人の5年間の事業継続、8割以上の雇用の維持、相続した自社株の継続保有など厳しい要件が求められており、選択には十分な検討が必要です。相続税の法定申告期限から5年の間にこれらの要件を満たさなくなった場合には、猶予税額の全額を納付しなければなりません。
また5年経過後であっても、納税猶予の対象となった自社株式を譲渡した場合には、その時において、譲渡株式に対応する猶予税額を納税する必要があります。これらにより納税猶予額の全額または一部を納税する場合には、その納付税額にかかる利子税(相続税の法定申告期限より起算)も合わせて納付しなければなりません。なお、後継者が死亡時まで対象株式を保有し続けた場合には、猶予税額の納付は免除されます。
また、この特例を受けるためには、納税猶予の対象となった株式等のすべてを担保に供さなければなりません。これらにより納税猶予額の全額または一部を納税する場合には、その納付税額にかかる利子税(相続税の法定申告期限より起算)も合わせて納付する必要があります。
「事業承継円滑化法」の施行
(1)制度の概要
平成20年10月1日より、新しく「中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律」が施行される予定です。上記の「自社株相続に関する納税猶予」に加えて、当法律により、「遺留分に関する民法の特例」および「金融支援措置」の2点が定められます。
遺留分に関する民法の特例とは、先代経営者から後継者(総議決権の過半数を所有し、代表者である者)に生前贈与された自社株の価額および後継者の貢献による自社株の価額上昇分を、遺留分算定の基礎財産から除外できるという制度です。
また金融支援措置では、経営の円滑な承継のための資金融資制度として、相続税の納税資金、会社が自社株や事業用資産を買い取るための資金、M&A支援のための資金などを特別利率により融資する制度が創設される予定です。
(2)「遺留分」に関する特例とは
遺留分とは、相続人に保証された最低の遺産額であり、被相続人の恣意的な財産処分を抑制するために設けられている民法の規定をいいます。配偶者と子供が相続人である場合、それぞれ法定相続分の2分の1の遺留分を請求する権利があります。
遺留分を侵害された法定相続人は、家庭裁判所へ「遺留分減殺請求の申立」を行使して遺留分を取り返すことができます。
しかし、自社株を相続した後継者に対して他の相続人から遺留分の減殺請求がなされると、相続に伴って自社株が非後継者に分散してしまいます。あるいは、自社株以外の財産による代償分割に応じることは、後継者の資金負担が増大する原因となります。
そこで、生前贈与株式を遺留分の減殺請求の対象外とすれば、円滑な事業承継と経営権の安定が期待できます。
なお、遺留分に関する民法の特例の適用を受けるためには、遺留分権利者全員の合意と経済産業大臣の確認および家庭裁判所の許可が必要です。