<事業承継に関する税金対策>
自社株の「相続税」に関する納税猶予
後継者が、経済産業大臣の確認および認定を受けた中小企業者(事業実態のない資産管理会社を除く)の株式を、先代経営者から相続により取得して、相続後5か月以内に代表者となり、その会社を経営していく場合には、その株式等(発行済議決権株式等の3分の2に達するまで)にかかる課税価格の80%に対応する相続税の納税が猶予されます。その後、経営承継相続人が死亡時まで対象株式を保有し続けた場合には、「免除届出書」を提出することで、猶予された相続税額の納付は免除されます。
この制度の適用を受けるためには、相続税申告書を期限内に提出するとともに、納税猶予の対象となった株式等のすべてを担保に提供しなければなりません。
また、相続税申告書の提出期限から5年間は、毎年1回、経済産業大臣への報告と所轄税務署への届出書の提出、5年経過後は3年ごとに1回、所轄税務署への届出書の提出が必要です。
この他、当制度の適用には、5年間にわたり事業を継続すること、8割以上の雇用を維持すること、相続した自社株の継続保有など厳しい要件が求められているため、選択には十分な検討が必要です。
相続税の法定申告期限から5年の間に、これらの要件を満たさなくなった場合には、猶予された相続税額の全額を納付しなければなりません。
また、5年経過後であっても、納税猶予の対象となった自社株を譲渡した場合には、その時において、譲渡株式に対応する猶予税額を納税する必要があります。 これらにより納税猶予額の全額または一部を納税する場合には、その納付税額にかかる利子税(相続税の法定申告期限の翌日より起算)も合わせて納付しなければなりません。
(自社株に関する「相続税」の納税猶予を受けるための要件)
(1)会社の要件
@ 非上場会社であること
A 中小企業者であること
B 風俗営業会社でないこと
C 資産管理会社(事業実態がある会社は除く)でないこと
D 総収入金額が0円、従業員数が0人の会社でないこと
(2)被相続人の要件
@ 会社の代表者であったこと
A 相続開始直前(相続開始直前において代表者でない場合には、代表権を有していた期間内のいずれかの時および相続開始直前)において、
同族関係者と合わせて総議決権株式の過半数を保有し、かつ、経営承継相続人を除く同族関係者内で筆頭株主であったこと
(3)相続人の要件
@ 相続開始から5か月後において会社の代表者であること
A 被相続人の親族であること
B 相続開始時において、同族関係者と合わせて総議決権株式の過半数を保有し、かつ、同族関係者内で筆頭株主となること
自社株の相続税の「納税猶予」を受けられる会社の要件
自社株にかかる相続税の納税猶予を受けられる会社は、上場会社でないこと、風俗営業会社でないこと、中小企業者であること、資産保有型会社等(以下「資産管理会社」と略す)でない等の要件があります。資産管理会社とは「資産保有型会社」または「資産運用型会社」をいいます。資産保有型会社は、相続開始前の一定の日より継続して特定資産(現預金、有価証券、賃貸用不動産、絵画など)の保有割合が、総資産の70%以上を占める会社です。資産運用型会社は、相続開始前の一定の日より継続して特定資産からの運用収入が、総収入金額の75%以上を占める会社です。
ただ、資産管理会社に該当する中小企業であっても、「事業実態基準」を満たしていれば、納税猶予の適用を受けることができます。
具体的には、次の3つの事業実態基準のすべてを満たす場合は、資産管理会社に当たらないものとされます。
@相続開始の日まで引き続き3年以上にわたり、商品の販売、資産の貸付け、役務の提供その他の業務を行っていること
A相続開始時において、常用使用従業員数が5人以上であること
B相続開始時において、常用使用従業員が勤務している事務所、店舗、工場その他の固定施設を所有または賃借していること
実際に事業活動を行っている会社であれば問題ないと思われますが、オーナー一族が、持株会社を通して経営承継会社の株式を保有している場合などでは、その持株会社の従業員数が5名未満であることも考えられるため注意が必要です。
また、中小企業者であること、上場会社および風俗営業会社でないことという会社要件は、納税猶予を受けようとする会社だけではなく、代表者の同族関係者が総議決権株式の過半数を保有する会社についても規制対象となるので、特に注意が必要です。
(自社株にかかる納税猶予の適用を受けられる会社要件)
@ その会社および代表者の同族関係者が総議決権株式数の過半数を保有する会社(特別の関係にある会社)が「中小企業者」である場合
A 資産保有型会社または資産運用型会社でないこと(ただし一定の事業実態がある場合には適用対象となる)
B その会社および代表者の同族関係者が総議決権株式数の過半数を保有する会社(特別の関係にある会社)のうちに「上場会社」がないこと
C その会社および代表者の同族関係者が総議決権株式数の過半数を保有する会社(特別の関係にある会社)のうちに「風俗営業会社」がないこと
D 総収入金額が0円、従業員数が0人の会社でないこと
自社株に関する「贈与税」の納税猶予
後継者(受贈者)が、贈与により、経済産業大臣の認定を受ける中小企業者(事業実態のない資産管理会社を除く)の株式を先代経営者(贈与者)から取得し、その会社を経営していく場合は、後継者が納付すべき贈与税のうち、その株式等(発行済議決権株式等の3分の2に達するまで)に対応する贈与税の納税が猶予されます。贈与者および受贈者が表に掲げる要件を満たしていることにつき、経済産業大臣の認定を受ける必要があります。
納税猶予の対象となる株式数は次のとおりで、贈与前から後継者が発行済株式数の3分の2以上を所有していた場合には、特例を受けることはできません。
(納税猶予の対象となる株式の数・・・次の区分に応じた株式数以上の贈与を受ける必要がある)
@ 先代経営者が贈与直前に保有する株式数と後継者が贈与前に保有する株式数の合計が贈与直前の発行済株式数の3分の2未満である場合
・・・ 先代経営者が贈与直前に保有する株式数
A 先代経営者が贈与直前に保有する株式数と後継者が贈与前に保有する株式数の合計が贈与直前の発行済株式数の3分の2以上である場合
・・・ 発行済株式数の3分の2から後継者が贈与前に保有する株式数を差し引いた株数
納税猶予の適用を受けるためには、贈与税の申告期限までに、特例を受ける旨を記載した一定の書類と贈与税申告書を所轄税務署に提出するとともに、納税猶予の対象となった株式等のすべてを担保に提供する必要があります。その後、贈与税申告書の提出期限から5年間は、毎年1回、経済産業大臣への報告と所轄税務署への届出書の提出、5年経過後は3年ごとに1回、所轄税務署への届出書の提出が必要です。
納税猶予の対象となった自社株を譲渡したときは、譲渡株式に対応する猶予税額と利子税を納税しなければなりません。 先代経営者が死亡した場合には贈与税の納付は免除されるとともに、特例を受けた自社株は贈与時の価額により相続財産に合算したうえで、相続税を計算します。その際、経済産業大臣の確認を受け、一定の要件を満たす場合には、相続で取得したとみなして、自社株について、先に見た相続税の納税猶予の特例を受けることができます。
(自社株に関する「贈与税」の納税猶予を受けるための要件)
(1)会社の要件・・・自社株についての相続税の納税猶予における会社の要件と同じ
(2)贈与者の要件
@ 会社の代表者であったこと
A 贈与直前において、同族関係者と合わせて総議決権株式の過半数を保有し、かつ、後継者を除く同族関係者内で筆頭株主であったこと
B 贈与時までに会社役員を退任すること
(3)受贈者の要件・・・ 贈与時において、
@ 会社の代表者であること
A 贈与者の親族であること
B 20歳以上であること
C 役員の就任から3年以上が経過していること
D 贈与時において、同族関係者と合わせて総議決権株式の過半数を保有し、かつ、同族関係者内で筆頭株主であること